2023年4月27日 アコースティックギターのジャパンヴィンテージについて
いわゆるジャパンヴィンテージというのは主に1960~70年代あたりに作られた国産のアコースティックギターのことを指すが、近年はこれがじつに面白い。当時の販売価格が安価なものであっても、経年変化のおかげか、かなり良く鳴るようになっているものが多いのである。代表的なものはYAMAHAのFGの赤ラベルからグリーン、黒、オレンジあたりに始まり、いろいろなブランドがこぞって作っていたギターたちのほとんどが良く鳴るようになっている。当時はフォークソングブームでもあり、ギターが大人気だったことから、もともとの楽器メーカー以外も家具職人まで駆り出してギターを製作していた。安価なものが主流だったからオール合板のものも多かったが、そうとは思えないほど良く鳴るものが少なくない。トップが単板ならほぼ間違いないと言ってもいい。ぼくも当時のYAMAHAのFGを3本、名人の百瀬氏が在籍中の林楽器製Mountainを3本所有しているが、いずれもかなり良く鳴ってくれる。コスパで言えば抜群と言っていい。また寺田楽器がOEMで作っていたオール単板の PacoのSofiaも貴重品で、名器と言えるほどの出来栄えである。そのくらいだから当時のK.Yairiなどはもう大人気で、けっこうな価格で流通するようになった。当時のブランドは無数にあるが、好みは置いといても、店頭で見かけたら試奏してみる価値は充分にあると思う。
ではなぜ当時のジャパンヴィンテージがこれほど貴重なのかと言うと、当時でもある程度高額なギターはしっかり手入れされたり大事にされてきれいに残っているものが多いのは当然として、ローエンドの価格のものは状態が悪くなってもコストをかけて修理するより買い直してしまったほうがいいというものが多く、つまりは現在に至るまで状態のいいものは少ないのである。逆に言えば現在でもいい状態のものは狙い目ということになる。現在流通しているものはある程度状態が良いから売られているわけだから、貴重な生き残りというわけだ。さらに70年代あたりだと現在までにおよそ50年以上経過しているので、ギターの材自体は完全に枯れ切っている。つまりエージングが済んでいるわけだ。安価で良く鳴るヴィンテージギター、それがジャパンヴィンテージなのだ。
前述のとおりしっかりエージングが済んでいるので、トップが合板であってもかなり良く鳴るものが多い。代表的なのがグリーンラベルのYAMAHAFG-160などだ。その前の世代のライトグリーンラベルや赤ラベル期のものはやや荒っぽい感じもあり、少しGibsonにも似ているくらいだったが、グリーンラベルや黒ラベルになると、ずっとしっとりしてマイルドかつ繊細になった感がある。オレンジラベルになるとレンジが広がってもっと高級感が出てくるが、黒ラベルまでの温かみのようなものは薄れてくる。そのへんが好みの分かれるところで、個人的にはグリーンか黒の時代のものが好きだ。
林楽器製のMountain3機種はいずれもトップ単板、サイド・バックは合板のものだが、どれも良く鳴ってくれる。見た目はGuildやGibsonのコピーだが、内部のブレースはMartinコピーなので、見た目と実際の鳴りとは異なるのが逆に面白い。3本とも75年製なので、全て百瀬氏在籍中の個体になる。面白いのは百瀬氏がHEADWAYに移籍後のものに比べて耳当たりが柔らかい。HEADWAYは新しいうちは概して音が硬質なものが多いのだ。かっちり組み付けられているのだろうが、ある程度緩さがないと、どうしても音もかっちりしたものになりすぎる傾向があると理解している。それが好きな人はいいが、嫌いな人は使い続けることができなくなるくらい気になるものだ。
ジャパンヴィンテージというほど古くないが、1999年移行のK.Yairiも3本ほど所有している。もっと古いK.YairiはMartinやGibsonなどのコピーモデルが多かったことから敬遠していたが、近年はオリジナリティの高いものが増えたため、それらは気に入って持ち続けている。これらもHEADWAYに比べたらずっと耳当たりがいいが、Martinよりはやや硬い。ジャパンヴィンテージの中でももっと音が硬いものが少なくないが、そのへんは好みになる。
カワセ楽器のオリジナルとしてMasterとBillyがあるが、いずれも田原楽器で作られたものが多い。田原楽器というと、もっとも有名なブランドはJumboである。当時もMartin並みに良く鳴るものが多かったという人が多いが、確かに当時の田原楽器の製品は優秀だったと思う。他にもOEMで有名なところと言うと高峰楽器(Nashville他)、寺田楽器(Jugard他)や安間楽器(Cat'seyesの一部他)、鈴木バイオリン(Kansas他)などが知られている。あと有名どころというと倒産前のS・Yairiがあるが、人によってMartinにそっくりそのままとまで高い評価をする人がいる一方、ぼくのように全然似ていないと思っている人も少なくない。ただ比較的中級機以上の価格帯のものが多かったため、残っているものはそれなりに良いものも多い。
このように、当時のジャパン・ヴィンテージは価格が安ければ狙い目なのは確かだが、ちゃんと調整されて弾きやすいものでなければ駄目なのはもちろんだ。状態が悪くとも自分で調整できるレベルの人なら何でもいいと思うが、初心者にはハードルが高いだろう。安価なギターでもちゃんと調整した上で販売している良心的なお店で買うことをおすすめしたい。
激安品をオークション等で狙う人も多いが、ちゃんと状態を聴取してから入札して欲しい。中にはどうしようもないガラクタを平気で売る人も少なくないからだが、逆にコレクターなどが放出するものはかなりお買い得なことが多い。ぼくも前述のMountain3本はいずれも某コレクターの人から買ったものだ。
一つ言っておきたいのは、ジャパンヴィンテージで見た目はMartinやGibson、Guildなどにそっくりでも、鳴り自体はまるで違うものだということを改めて申し上げておく。なぜなら外観は似せても内部の構造までは似せていないことがほとんどだからだ。ぶっちゃけほとんどがMartinのXブレーシングを手本にしているが、かといってそれを完全にコピーしているブランドはほぼ皆無だから、出音が似るわけがない。その点は期待しても無理ということだ。
まとめると、ジャパンヴィンテージは比較的安価で入手できて、かつ良く鳴るヴィンテージギターというのが最大の魅力になる。興味のある人はいろいろ捜してみるのもいいかも知れない。