Larrivee L-28 #281305(1981)
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71年頃からオリジナルのスチール弦ギターを造り始めた Larrivee。77年頃からビクトリアBC(カナダ)に生産拠点を移し、カナダの地の利を生かし、豊富な良材を丁寧に使って自然な倍音と艶やかな音色を持つギターを送り出してきました。
製作を開始した当時、70年代後半から80年代前半くらいまではJean Larrivee氏本人が一人で製作し奥さんがインレイを入れるというまったくの個人工房でしたが、その後90年代にカナダに工場を建てて従業員を増やし、さらに2000年代になるとアメリカにも工場を建設してカナダとアメリカの2極体制にまで成長しました。
以前に Larrivee でもローコストの機種を二本ほど使ったことがありますが、しばらく使った末に物足りなさを感じるようになって放出してしまったものの、きちんとまとまっていて、Larrivee らしさはそれなりに出ていました。
その経験から、いつかもっと Larrivee らしい上位機種、できれば個人工房時代のものを使ってみたいと思っていましたが、メインギターである Martin の追求と厳選に気をとられて延び延びになっていました。
昨年、ようやく Martin も以前からの目標だった少数精鋭が実現したことなどから、眠っていた Larrivee への思いが蘇ってきました。そこへ念願だった80年前後の個体が見つかり、調整の結果、とても気に入ってゲットしたのでした。
L-28 #281305
2010年1月3日、K楽器本店でゲット。
ようやく見つけた「珠玉の Larrivee」 です。 (笑)
1本ですら出るのが珍しい初期型の Larrivee が、その店にはなんと2本もあったのです。 貴重な初期型 Larrivee をいっぺんに2本も弾き比べることができたのは、今回が初めてでした。
77年ものと80年代初期ものでしたが、しばらく弾き比べた末に後者を選びました。前者にはクラックリペア跡など多少のリペア歴があったことと、どうも現状で目一杯の鳴りという感じがあったのに対し、後者は状態が良くリペア跡も見当たらず、まだ音に伸びしろが感じられたからです。
こちらの個体も当初はサドルが低すぎてテンションがあまりかかっておらず、充分に鳴りきっていないと感じたので、店にいたリペアマンにその場でサドルを作り直してもらい、調整した後で再度鳴らしてみたところその違いは一目瞭然で、すぐ持ち帰らずにはいられないほどの見事な鳴りっぷりに変貌したのでした。大成功!
独特の響きが何とも言えない Larrivee ですが、個人的には70年代後半から80年代前半くらいまでのものが特に好きで、ぜひいつかは一本欲しいなと思っていました(造り始めの70年代初期のものは弾いたことがありません)。
ところがその時代と言うのは Larrivee 氏が一人で製作し、奥さんがインレイを入れる作業をしており、事実上の個人工房でしたから、その製作本数は極めて少なく、日本に入ってきた本数も微々たるものでした。そのため現在でも流通量が非常に少なく、出たとしても価格がけっこう高いのです。輸入当時の価格はスタイル45並みでしたから、ある程度価格が高いのはやむを得ないところではあります。その後、80年代後半になると一度は輸入がほとんど止まってしまい、再度日本に入るようになったのは90年代初頭からでしたが、この頃になるとカナダに立派な工場を構え、従業員も増えて品質も安定し、個人工房の雰囲気はほとんど無くなります。
さらに2000年代に入るとアメリカにも工場を造り、カナダ工場と共に大量生産に入ります。この頃から Martin を意識したようなデザインのギターも増え、カナダ工場のそれと2つの流れを持つようになりますが、2013年11月以降はバンクーバーのショップを残してカナダでの事業を終了し、現在はアメリカのカリフォルニア工場に集約されているようです。
これらはどれも美しい倍音を出す個体が多く、多くのバリエーションを誇るようになりました。材も良く、品質も安定しており、ブレースの構造などから見た目よりもずっと丈夫なこともあって、現在でも個人的にお薦めできるブランドの一つです。
しかし、個人的にはやはり個人工房時代のギターのほうが好きなのです。
組み付けの精度などからすればむしろ大量生産に入った90年代以降の方が安定していると思うのですが、個人工房時代の個体は特にプレーン弦に独特の音の太さがあり、中音域に音の厚みがあり、かつ独特の倍音も残っていて、その音色はその当時の Larrivee でしか出せないものなのです。
そこで今回ようやく入手したL-28です。明らかに個人工房時代の製作であることは間違いないのですが、正確な製造年がいまいちわかりませんでした。そのラベルや仕様などから80年から81年あたりとしか推定できないのです。型番や仕様がたくさんあった(というより、まだ統一した決まりがなかった?)わりにそれぞれの流通量が少なくて統計がとりにくいし、 Larrivee のシリアルのロジックは途中で何度か変わっている上に完全には解明されておらず、つまり良くわからないからです。たとえば70年代のものにはラベルに製造年が書かれているものが多いのですが、80年代になると省略されていたりします。ラベルの切り替えについては比較的ちゃんと記録されているので、そっちのほうがよほど頼りになったりします。
ここで、ある方からヒントを頂きました。その方のほうが古いLarriveeに関してはよほど詳しいようで、大変助かりました。その情報は次のとおりです(この頃の年代のシリアルのロジックに限りますが)。
・上2桁はモデルの型番(ほぼ間違いなさそう)
・下4桁はVictoriaに工房移転した頃からの製造順の「通し番号」(推定)
問題は、4桁の通し番号が単純な積み上げ数字なのか、それとも他のロジックなのかが特定できていないことです。たとえばこの「281305」も、「L-28、1305番めの製造(通し番号)」で良いのか、あるいは「1は81年の1、残り305が通し番号」になるとか、いくつかパターンが考えられると思いますが、おそらく前者の通し番号であろうという方が正しいと思われます。その根拠は、80年あたりではまだ個人工房でしかなかったとはいえ途中から他の職人も数名増えたとされるので累計で1,305本くらいは作れたのではないかと。305本だと逆に少なすぎるような気がします(その年だけの製造分の可能性もありますが)。
単純に考えると、71年ごろから作り始めたとして、この個体の製作までに10年、毎年130本程度、月に10本強をコンスタントに作っていれば1,305本も納得できます。部分的に機械を使うなどしてそれなりの本数を製造していたとすればなおさらです。したがって、単純な通し番号の可能性が高いかと思われます。
また、この個体の少し前、おそらく80年製造で間違い無いだろうと思われる個体をお持ちの方からシリアルをお寄せいただきましたが、「271170」(L-27 INLAY CUTAWAY)であったことも、このロジックの裏付けになると思います。この当時は全モデルが「L-XX」という型番になっていて、その2桁の数字でグレードや形状を区別していたようです。81年の冬に購入されたということですので、81年以降の製造ではなく、ぼくの個体とのシリアルの差は135となり、上記の計算からしてもほぼピッタリになります(シリアルをお寄せいただいたMさん、ロジックを教えていただいたAさんに感謝します(^^))。
型番とシリアルと画像を Larrivee 社にメールで送れば製造年月がわかる場合もあるので、ぼくも所定の様式で送信してみました。しかし「それは古い機種です」としか返事がない場合もあるそうで(笑)、古いものについては正確な記録が残っていないことも多いのだと思われます。 Collings も同じようなことがありましたからある程度はやむを得ないのかも知れません。
Larrivee 社から返事が来るまで、最長で3週間ほどかかるということなので、しばらくは楽しみに待っていたのですが、この個体くらい古くなると、「古い機種です」と言われるだけの可能性も高いかも知れません。(爆)
・・・ということでしたが、まさに3週間後に返事が来ました。これです。
Hello,
Thank you for the photos. The serial number of your guitar is in a book that was lost during a move from one factory to another. However, the pictures tell me the guitar was made in late 1980, early 1981. That is a very beautiful guitar and should be worth a lot of money someday!
Matthew
こんにちは、
写真をありがとう。あなたのギターのシリアル番号は、ある工場から別の工場への移動中に紛失した本の中にあります。しかし、写真から、このギターは1980年後半から1981年前半に製造されたことがわかりました。とても美しいギターで、いつか大金になるはずだ!
マシュー
ということで、80年の終わりから81年初め頃の間に作られたということです。この時期に貼られていたラベルはまさに80年から81年までしか使われておらず、82年にはまた別のラベルに変更されたということがWikipediaにも書かれていますので、このギターはMatthew
氏(後に創業者Jean氏の実弟だったと判明)の言うとおり80年後期から81年前期の製品で間違いないでしょう。当初からそのくらいだろうとは思っていましたが、はっきり裏付けが取れて良かったと安堵しました。ただ製造年を聞かれるたびにいちいち80年から81年の間、と答えるのも面倒かなと思ったりしていたのですが、近年になってLarrivee社のサイトにもシリアル検索のページが設けられていたので、それを参照すると我が家のギターは81年製のようです。以下に引用します。
If you have a Victoria made label inside your guitar with a serial number between 0001 and 6000, or a 1980's style electric, please use the below chart for production year.
お手持ちのギターの内側にビクトリア製のラベルが貼ってあり、シリアルナンバーが0001から6000の間である場合、または1980年代スタイルのエレキギターである場合、製造年については以下の表をご参照ください。
1977 - 0001 > 0250
1978 - 0251 > 0550
1979 - 0551 > 0850
1980 - 0851 > 1250
1981 - 1251 > 1850 (我が家の個体は 1305なので81年製と判明)
1982 - 1851 > 2500
1983 - 2501 > 3100
1984 - 3101 > 4000
1985 - 4001 > 5000
1986 - 5001 > 6000
あと、Matthew 氏は最後にこのギターのことをやたら褒めてくれていますが、ここで言うビューティホーというのがどういう意味なのか、微妙なニュアンスがわからないのがちょっと残念です。状態がいいということなのか、単純に木目がきれいということなのか。いずれすごい価値になるだろうというのは嬉しいけど、こいつに関しては売るつもりはないしね。(笑)
Larrivee社も、カナダ発祥とはいえ記録の正確さについてはアメリカ並みらしく、80年製の「L-27」のことを「C-27」と言い間違えたり、前述のとおり記録簿そのものを一部とはいえ紛失していたりしますので、失礼ながらあんまり当てにはならないようです。
ちなみに「C-XX」という型番は90年代になって付けられるようになったものなので、その型番がついているだけであまり古いものではないということになります。
シリアルについてはこのくらいにし、話をこの個体に戻しますが、使われている材はトップがおそらくジャーマン・スプルース、サイド・バックはローズウッド、ネックがマホガニーで、それぞれ本当に素晴らしいものが使われています。
特にトップのジャーマンスプルース(推定)は木目が良く詰まっており、角度によりトラ杢が浮き出て見える美しいものですし、光の加減で左右が違う色に見えます。サイド・バックのローズウッドも最近良く見られるようになった質量の軽いものとはまったく違い、良き時代に充分に厳選された良材と言えます。
(※その木目や音色などからおそらくジャーマン・スプルースではないかと自己分析していましたが、どうやら正解のようです。
当時のグレードの中のグレード「DELUXE」「L-28」「カッタウェイ」のスペックは次のとおりとなっています。
トップは Sorid German Spruce 、サイド・バックは Solid Indian Rosewood、ネックはワンピースのHonduras Mahogany 、指板・ブリッジはEbonyと確認できました)
アヴァロンのパーフリングは角度によりとても美しい輝きを放ち、その色の深みには素晴らしいものがあります。
ネックのシェイプもその年代のものらしく、手で削られたVの頂点が向かって左側にずれているタイプで、じつに握りやすいものです。最近の Larrivee はかなり薄いカマボコ型のものが多いようですが、この個体のネックは明らかにVなので、 Martin を使い慣れている自分にとってはこちらのほうが好ましく感じます。
ヘッドにはユニコーンのインレイが入れられており、ペグはグローバー・インペリアル(Grover Imperial)がつけられていますが、これがオリジナルのペグです。
ユニコーンのインレイもこの当時はすべて手作業だけに個体ごとに表情などがすべて異なっており、それぞれ個性があって観比べるのもまた楽しいものです。その中でこの個体のユニコーンは比較的精悍な顔をしている方だと思います。
指板・ブリッジは色の淡い茶色っぽいエボニーが使われています。いっさい色付をされていないので、一見するとローズウッドかと思えたりしますが、導管がほとんど見えないほどに目が詰まっているまぎれもなく良質のエボニーです。
指板に入っているインレイは Larrivee 独特の鳥が羽ばたいているような意匠ですが、これはちょうどこの頃、70年代後半~80年前後の頃から使われるようになったようです。
全体に渡ってオリジナル度が高く、サドルとナット以外は、おそらくすべてがオリジナルのパーツだと思われます。
気になる音色ですが、しっかりとした低音、厚みのある中音に支えられる形で、 Larrivee らしいきらびやかで広がり感のある、豊富な倍音と美しい余韻を備えた甘く太めの高音が最大の特徴だと思います。ヌケが良く音量もかなりのものですし、音の張りがとにかく素晴らしく、確かな力強さとスケール感があります。
弾くタッチの強弱に応じて微妙なニュアンスも出せますが、小さい音であってもあくまで力強く、けっして貧弱な鳴りにならないあたりが非凡なところだと思います。
Larrivee と言うときらびやかで繊細という、どちらかといえば女性的な鳴りというイメージが有りますが、このギターに関してはじつに男っぽさを感じるのです。
こうした音色と、やや太めのVネックのため、けっこう曲を選ばない楽器になっていて、フラットピッキングでもちゃんとイケますが、それでもあまりガシャガシャ弾くよりは一音一音を大切にしながらポロポロ弾くのが一番似合うと思います。単音でも和音でも気持ち良く音が融合して、とても立体感のある音色です。
今では入手が困難になってしまった、初期製作の Larrivee 。
知人の一人がこれに近い年代のものを所有していて、それがとにかく良く鳴るのに驚愕して以来、その素晴らしい鳴りっぷりが忘れられなくて、今まで古い Larrivee を捜し求めていました。
その Larrivee を基準にすると、店頭で見られるどの Larrivee も色褪せて見えてしまうのでしたが、今回の個体はようやく、それに匹敵するんじゃないかなと思えるものです。
あくまで音の記憶が正しければ、の話ですが。(笑)
で、いよいよギターのネタも尽きそうな感じです。
Martin でも欲しいギターはなかなか見当たらなくなったし、 Collings やHaedwayは自分には音が硬すぎて駄目、 Lowden やSantacruzは自分にはトップが弱くて駄目、 Gibson はあえて必要を感じないし、 YAMAHA はFGシリーズで充分だし、 Cat's Eyes は安間製が意外に良かったけど、やはりぼくの好みからするとMartinには及ばず放出しちゃったし、Furch も Guildも気に入ってはいたけどやっぱりMartinほど残したいとは思えず出しちゃったし、個人工房のギターたちは良い物もあるけどコスト的に欲しいと思わないから、ほんとに欲しいギターが無くなったと言えます。
ならば、果たしてこのL-28がMartin、YAMAHA以外の最後の一本となるのか?
それは自分でもわかりませんけど、できればもう買いたくないですね~。(^^ゞ
(最終更新日 2012.12.30)⇒ 加筆訂正 2019.4.21(シリアル関係、使用材など)