Alvarez Yairi DYM-95V(2008)

 国産ギターはけっして嫌いではないのですが、 YAMAHA 以外の大半のブランドはどうも Martin などのコピーをあからさまにやりすぎると感じていま した。見た目は大差ないのに鳴らしてみるとかなりの違いがあるというのは納得出来ないし、逆に言えば中身や出る音がまったく違うのに外見だけそっくりに似せてしまうというのはぼくにはフェアではないとしか思えませんでした。

 また、国産ギターは概して音が硬いものが多く、それが嫌でなるべく使いたくないと思っていたこともありました。作りが精密すぎ、かっちりし過ぎで音が硬くなっているのだと推測していますが、ほとんどのブランドでその現象を感じていました。
 この K.Yairi というブランドも品質はなかなかいいものがあると思っていましたが、長い間、外見が Martin のコピーの製品がほとんどでした。あまり大きくない工房ですから、コンスタントに売れる製品を送り続けねばならないという宿命があったことは理解できるのですが、コピー製品が嫌いのため使う気になれなかったのが本音です。ただ、過去にG-1Fという機種を興味本位でヤフオクで落としたことがあり、それもルックスやネックの細さなど見た目はGibsonコピーでしたが鳴り自体は悪くなかったのを思い出したことと、最近はオリジナル要素の増えた機種もずいぶん出てきたのでそっちに興味が出てきたことに加え、残念ながらこの2014年3月に社長の矢入一男氏が逝去されたことをきっかけに、再度K.Yairiの製品を試してみる決心をしたのでした。

 基本的なものは Martin のコピーから始まっているとはいえ、この手工メーカーにはその作り方において一貫した独自のポリシーのようなものを強く感じます。ここで紹介するギターは、音質はやはり Martin とはまったく別物ですがその質は良く、充分に使い分けが可能だと感じています。 音色は一音一音の分離が良く明瞭感があり響きも余韻もきれいで、どちらかと言えばかなり硬めの音色のものが多い国産ギターの中では珍しい存在と言えるほど耳当たりが良いのが気に入っています。

DYM-95V  (2008)

 久しぶりにK.Yairiのギターを使ってみたいと思い、どうせならそれなりのグレードのものがいいと考えてR店より購入したのがこのギターです(2014年3月23日。到着は25日)。

 細かいことを言えばブランドロゴはK.YairiではなくAlvarez Yairiですが、K.Yairiが作ってるのは同じなので、気にしないでね。(笑)

 当然14フレットジョイントのモデルもあるのですが、偶然にも12フレットジョイントのモデルが馴染みの店に入荷したという情報が入り、問い合わせてみると「ほとんど新品」であり、申し分のない状態ということで、これも縁だろうと購入に踏み切ったのでした。

 スペックは次のとおりです。書くのが面倒なためWebからのコピペなので横文字で失礼。現行機種はこういった情報がすぐ取れるから便利ですね。(笑)

TOP: Solid Spruce
SIDE&BACK: Solid Rosewood
NECK: Mahogany
FINGER BOARD: Ebony
BRIDGE: Ebony
ROSSETTE: Abalone
PICK GUARD COLOR: Tortoise Color
TUNER: Gotoh Gold Side Mount
NUT WIDTH: 45mm
SCALE: 648mm
OTHERS1: 12 Fret Joint/ Slotted Head
Offered is an Alvarez Yairi DYM95V Masterworks Series 12 fret to the body guitar with slotted headstock. Very balanced tone and loud!
Gloss natural finish, D-size, slope shouldered, 15-3/4" lower bout, 4" to 5" body depth, all solid woods, spruce top, Indian rosewood sides and 2-piece back, 12-fret mahogany neck with slotted headstock, 19-fret ebony fingerboard with slotted diamond inlay on 12th fret, ebony direct coupled bridge, rosewood peghead overlay, gold Gotoh vintage-style tuners with butterbean buttons, abalone soundhole rosette, tortoise plastic pickguard, ivoroid-bound body and fretboard, b-w-b-w-b top purfling, ~25-3/8" scale, 1-3/4" nut width, nice sound, signed and dated by the maker on the neck block, built in Japan.

 ご覧のとおり、ルックス的にはMartinのリイシューSによく似ています。ナット幅が44.5mmなのも同様です。最大の特徴はK.Yairiがパテントを取ったダイレクトブリッジが採用されていること。これがなければ単に丸ごとMartinコピーと言ってもいいくらいでしたが、これが採用されていることでK.Yairiのオリジナリティが現れています。またこの独特なブリッジのギターはぜひ一度使ってみたかったので、その希望が叶いました。

 使われている材はどれも素晴らしく、特にトップの材は均一に目が揃った上等なもので、もちろんタップ音も見事です。サイド・バックのローズウッドもかなり硬めの材のようで、個人的にはローズウッドとして理想的な材ではないかと思います。ネックや指板、フレット、ナットやサドルの仕上げも見事です。今どき、ここまで愚直にこういったパーツを手作業で仕上げるメーカーがあるのかと感動すらします。

 音質はというとMartin コピーの国産ギターのほとんどがそうであるように、本家? Martin より全体にやや硬めですが耳当たりは良く、 たとえば HEADWAY よりは明らかに柔らかいという感じ。その中にK.Yairi独特のまろやかさを感じます。独特というのは、ほとんどの国産ギターのそれとはちょっと違う感じの柔らかさだと思えるからです。芯があるけどそれをまろやかなもので覆っているという感じ。パスタのアルデンテみたいで、芯はあるものの耳当たりはけっこう優しいのです。ヌケの良いのも特徴で、音の濁りなどはほとんど感じられません。

 全体にゆったりした鳴りなのは12フレットジョイントならではのものですが、低いほうが膨らみすぎることもなく、ほどよく締まっているため、多様な音楽に対応できそうです。ネックもOMとほぼ同じ程度の太さのため、ハイポジションでカポを使うとやや狭いという以外には欠点も見当たりません。
 前述のとおり「ドレッドノートS」ですからもちろん低い方の量感も充分なのですが、「S」スタイルのわりには低音のダンピングが効いており、出方が軽やかで全体のバランスや音程も良く、タイトな音も出せて、コードを弾いてもきれいにまとまるし、響き・余韻もきれいです。一音一音が明確でサスティンもあり、特にそのトップの板から滲み出てくるようなサスティンと余韻はかなりいい線行ってるんじゃないかと感じています。全体に渡って音のヌケが良くクリアで明瞭、曲を選ばない万能性があります。

 ディズニーのアニメの女性のように上目遣いで目をパチパチさせるような色気は感じませんが、あくまで清楚な和風美人を想像していただきたい。愛情表現があっさりしているというか、照れがあるのです。でも後ろ姿で着物の衿からうなじを見せられたりするとドキッとしますよね。そういった意味の色気は充分感じます。つまりは色気の質そのものが違う。コメでいえばコシヒカリではなくササニシキの美味しさがあると思うのです。あくまでコメ自体の美味さを自己主張したがるコシヒカリではなく、おかずの素材の味を引き立てる協調性があるのがササニシキ。ヤイリのギターには、そんな印象を受けるのです。
 我が家に到着して最初のうちは、製造後6年が経過しているわりにまだ全体に若い感じが残っており、サウンドホールの中で音が出て行こうかどうしようかと躊躇しているような印象があって、音が元気良く飛び出していくというレベルにはまだ達していないと思いましたが、何日かしつこく鳴らしたり、弦の巻き数を調整したりしていくうちにどんどん鳴るようになってきました。おそらくはしばらく弾かれていなかったのだと思いますが、今では充分に鳴りと音色を楽しめる水準に達したと感じています。

 それにしても、ここまで短期間に大きく変貌したギターも珍しい。一番影響したのは弦のペグへの巻き数でした。意外なほど敏感な楽器で、ペグへの巻き数を調整したら、まるで当初とはまったく違う楽器のようでした。現在ではその時ほどは弦の巻き数に敏感ではなくなりましたが、やはり最適な巻き数はあるようで、弦の交換時には前回と同じ巻き数で行うことを徹底しています。(^^ゞ 弦がやや古くなった状態でもそれなりに鳴ってくれるところからすると、比較的新しいとはいえボディがちゃんと振動していることがうかがえます。

 今後どうなるのかはまだ未知数で、もっと鳴るようになったらすごいことですが、そこまで行かなくても現状のレベルを維持できればコストに見合うパフォーマンス以上のものは充分に得られていると思っています。

 自分が手にした国産ギターとしては久しぶりに充分なまろやかさ、艶と色気があり、弾いていて楽しい気分です。

 長い間、国産ギターはいろいろ買っても生き残れるのは古くてチープな YAMAHA だけという珍現象が自分のジンクスとなっていましたが、今回ははたしてどうでしょう。Headwayですら破れなかったジンクスを、K.Yairiは果たして破ることができるのか、楽しみです。
 このギターはやはり今までに弾いてきたギターのどれとも違いますが、国産ギターのいい面を感じさせてくれるような気がすることが一番の特徴ではないかと思います。愚直なまでに細部にいたるまでていねいに出来ているなあと思うのです。手工できっちりと作られているなということも良くわかります。また、形は似ていても中身は極力違いを出そうとしているんだろうなという意気込みが感じられるような気がします。

 では愛器 Martin 軍団と比べたらどうなのか? ぼくはどっちかを選べと言われたら好みからしてMartinを選ぶでしょうけど、客観的に観ればほぼ互角に戦えるくらいの出来栄えを見せています。音色は違うにしてもいい勝負ができると思います。そのくらいの鳴りっぷりです。
 トータルでは、価格以上の性能は充分にあり、全体の出来としてはまったく文句のない範囲ではないかと感じています。言わば真面目にきちんと作られた、良質の国産ギターだと思います。

 若き日の矢入一男氏はMartinで修行してきた際、ギター作りのノウハウを吸収するとともに、ヤイリならではの音作りをも身につける必要があると悟ったのでしょう。それが他の国産ブランドとは違い、ガチガチに作り過ぎない、硬すぎない音色を実現できた理由だと思うのです。
 それにしても、 Martin を一本放出してようやく置き場所に少しだけゆとりが出来たと思ったらすぐにこいつを買っちゃったりしたわけで、まったくいつまでたっても懲りないやつ・・・。(~_~;)

(最終更新日 2014.4.26)



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