Martin D-18S  (1971)

ローティーンの頃にギターを始めて以来、ずっと Martin に憧れ続けてきました。
 社会人になってようやく手が届くようになり、他のブランドも含めていろいろと買い換えたりしてきましたが、依然として Martin が一番好きなブランドであることに変わりありません。abu にとってはやはり Martin こそが王者であり、ギター界のチャンピオンなのです。それは Martin の音がもっとも自分の好みであるというのが一番の理由であり、クリアでありながら甘い音色も兼ね備え、いつまでも飽きないのが最大の魅力だと感じています。
  Martin のギターは、どれをとってもそれぞれに良い味があると思いますが、その中で 1959年製 D-28 のように自分にぴったり合うギターが見つかったことはこの上ない喜びでした。ずいぶんと寄り道もしましたが、いろいろ取り替えて試してきたおかげで、自分にとって必要なギターはどれなのかを理解することができ、ようやく自分にとって最上のラインアップになってきたと思います。
 コレクションしているつもりはないので、最高に気に入ったギターが見つかった現在では必要最低限の本数に絞り込む段階にきています。今までは思い入れの強さなどからなかなか減らすことができず困っていましたが、ここへきてようやく、理想としていた「少数精鋭」が実現したと思います。(^^ゞ 

D-18S #289917 (1971)

  2010年 9月 23日(木・祝)、札幌のR店よりゲット。以前に大好きで何本も買い集めたことがあるドレッドノート「S」タイプが懐かしくなり、ついまた手を出してしまった一本です。
 1971年製というと、もっとも好きだった「S」タイプのD-28S'71と同じ製造年ですが、シリアルからするとこの楽器のほうが少し古いことになります。
 ショップのサイトで見たときに、トップの木目が前述のD-28S'71に良く似ていると感じて衝動的に発注したのですが、実際に届いてみると、まったく違う木目でした。角度によって、まるっきり違って見えるタイプの板なのでした。(笑)
 あちこちにベアクローがあり、細かい横目はほとんど見られないのに縦線はくっきりしていること、かなり日に焼けているのに極端には茶色になっていないことなどからジャーマンスプルースではないかなと推測していますが、例によってどうでもいいことです。
 ラッカーチェックが縦に数本あり、ごくわずかにMartinクラックがありますが、貫通していない程度なので問題はありません。ピックガードは貼り替えられていますが、それでもかなり波打っていますので、オリジナルのピックガードがどれだけ変形していたのかは想像がつきますが、その割にMartinクラックが軽微なのは奇跡的とも言えます。
 サイド・バックには打ち傷などがあちこち見られますが、クラックはありません。サイドの板の内側には布製の割れ止めがたくさん貼りつけてあるのも、ここまで無事だった理由の一つではないかと推測しています。最近はサイドに割れ止めを貼らないことが多いようですが、貼らないよりは貼ったほうがいいんじゃないかと個人的には思っています。
 スペック的にはまんま70年代初期のスタイル18と言って良く、サイド・バックはマホガニー、ネックもマホガニー。指板とブリッジはローズウッドとなっていますが、ブリッジに関してはその木目などからハカランダの可能性も高いと思われます。「S」タイプなのでヘッドはスロッテッドヘッド、ナット幅は約47mmと太く、12フレットジョイントです。
 最初に驚いたのはその軽さで、今まで手にしてきたどの「S」と比べてもダントツに軽いのです。良く枯れたスタイル18にはこのように軽いものが散見されますが、「S」でこれほど軽いのは初めてです。以前に手にしたD-18S'70でもここまでは軽くありませんでした。
 軽けりゃいいというものでもありませんが、軽いと良く鳴りそうなイメージはあります。実際に古いマホガニーなどは特に軽いものが散見され、そういう個体は良く鳴ることが多かったりするので、この個体にも多少期待してしまうのは仕方ありません。
 そこで慎重にチューニングして、じゃらんと弾き下ろしてみると、思いのほか素晴らしい音が元気に飛び出して来ました。これにはびっくりです。こんなに楽に鳴るのか!
ノンスキャロップなのに、まるでスキャロップのような音の出方です。
 レンジが広く、低いほうから高いほうまでバランスが良く、「S」にありがちな低域のこもり感もほとんどなく、すっきりと抜けてくれます。それでいてしっかりと量感があり、中高域は繊細で、スタイル18らしいキラキラ感や倍音も充分に出ています。ハイポジションでもかなりのサスティンがあり、7カポでもローポジションとほとんど変わりないように音が出てきます。これは想像をはるかに超えていて、掘り出し物を見つけた感じがしています。
 音に関しては過去に手にしてきたどの「S」よりも欠点が少なく、美点ばかりが目立つ今回のギターですが、ピックガードの波打ち状態などからルックスは劣ります。とはいえ自分の場合は鳴ってさえいれば見た目の細かいことは気にしないので、まったく気になりません。このギターはパーツもサドルとナット以外はおそらくすべてオリジナル、ケースはオリジナルではなくTKLの比較的最近のものが付属していましたが、「S」のラウンドショルダーにも良くマッチしていて、きつくもなく緩すぎもせず、なかなか良い組み合わせだと思います。TKLの汎用の木製ケースがこれほど「S」に良く合うというのは恥ずかしながら知りませんでした。
 ペグはやはりオリジナルで、グローバーの見慣れたタイプ。「S」にはおなじみのペグで、ギヤ比が低いのでチューニングには神経を使いますが、なぜかこのペグは音だけはいいので、このまま使うことにします。
 弦高も正常でネックの状態も良く、当面は何の手入れも必要なさそうですし、安心感がありますが、サドルだけは70年代らしく、あまり高さがありません。いささか大げさに感じるかもしれませんが、これだけの状態、これだけの鳴りをしていれば、愛器 D-28'59 や D-18'78 の仲間としての資格も備えていると思います。 少なくとも、過去に手にしてきたどの「S」よりも、総合的なバランスで優っていると思います。
  D-18S'70は中高音が美しく低域も量感がありましたが、レンジはあまり広くありませんでした。D-28S'71は何ともふくよかで艶っぽくて好きだったけど、低域がモコモコ出すぎていてこもり感が否定できませんでした。D-28S'74もバランスは良かったけど低域がやや薄く、D-28S'69やD-28S'72はいかにも「S」らしくはあったけど無難すぎてサドルが高かった以外は特にメリットを感じず、D-28S'91、D-28S'93は年式からして鳴りが育ち切っていませんでした。 リイシューSシリーズのD-18VMSとHD-28VSもそれぞれ素晴らしい鳴りでしたが、オリジナルSシリーズとはサウンドホールの位置が違うこともあってか微妙に違和感を感じるようになり、結局はすべて手放してしまったのでした。
 こうしてみると、今回の個体はトップレベルであることが分かります。ボディの鳴りがすごく、ビリビリと体に伝わってきますし、ネックの先まで充分に鳴っているのがわかります。材が充分に乾燥していることがうかがえます。ストロークはもちろん、一音一音弾いた時の音の繊細さと粒立ちの良さはマホガニーのメリットがいかんなく発揮されており、Martinらしい柔らかさはもちろんありますが、その中にしっかりとした力強さがあります。70年代でも初期の個体にはこういった個体が散見されると思っていますが、この個体もそんな感じで、とても気持ち良く弾くことができます。
 「S」は66年くらいから造られているので、あまり古いものはほとんど存在しませんし、14フレットジョイントになる前の古いものとなると実物が出回ることもほとんどありません。その意味ではハカランダのものはもちろん、ローズウッドやマホガニーのものですらめったに目にすることのない希少品であることは間違いないのですが、自分の場合は首都圏在住の地の利を生かして何本も試すことができました。その中でも今回の個体の優秀さはひときわ目立っており、今までのものをすべて手放したのを後悔せずに済むほどに良く鳴ってくれています。
 ナット幅が47mmですから確かにネックは太いのですが、かつてずいぶんと弾いていたことからすぐにその感覚を思い出し、今ではごく普通に弾くことができるようになりました。昔取った杵柄というのは良く言ったもんですね。
 いつもは試奏をしてからでないとなかなか買わないのですが、今回購入したショップは以前お茶の水にいたメンバーが経営しており、札幌からの通販でもまったく不安は感じませんでした。結果としてはとてもいい買い物ができたと喜んでいます。考えてみると、「S」にはさほど当り外れというのがないように思います。ていねいに扱われてきた個体が多く、どれも一定の水準をクリアしているものばかりでした。どことなく優しいイメージのある楽器ですし、作る人も使う人も楽器に対して優しい気持ちをもって接していたのではないかなと想像したりしています。
 自分がMartinのギターを買うときは不思議なジンクスがあり、ヘッドのロゴが傷ついていたり汚れていたりするものに当ったことがないのです。試奏は何度もしましたが、弾いてみて気に入り、よし買おうと決めたときにヘッドのロゴを観るときれいなものだった、ということが多いのです。決してロゴがきれいだから買うことに決めた、なんてことではありませんよ。同じレベルの鳴りであればロゴがきれいに残っているほうを選ぶけど。(笑)
 ヘッドのデカールはちょっとしたことからすぐに剥がれてしまったりするのでダメージを受けているものも多いのですが、我が家のMartinたちはその点においてはみんなきれいに残っているのがありがたいと思っています。
 今回の個体は、正直言ってあまり期待せずに購入したものです。「S」が懐かしくなり、そこそこのものが手に入ればそれで気が済むだろうと思っていたのですが、このように良く鳴る個体だったとは思いもしませんでした。しかも過去のどの「S」よりも優れていると思えるほどの素晴らしさ。ちょっと都合が良すぎるような話ですが、たまたま見つけたのがなじみ深いショップ、「S」としてはリーズナブルな価格など、偶然と済ませるにはあまりにも都合のいいことが重なっています。今回の個体も、我が家に来るべき運命だったのでしょうか。
 これで我が家のMartinも14Fドレッドノート、12Fドレッドノートが再び揃いました。以前は今から思えば笑えるほどの本数を所有していましたが、どれもいまいち決め手がないものばかりだったりしてあまり意味はなかったのに対し、今回の3本は自分で言うのもなんだけど、どれも粒揃いです。今頃になって、ようやく人並みのギター選びができるようになったのかなと苦笑したりしていますが、今までいろいろやってきたことは無駄ではないと信じています。そう思っていないとむなしくなっちゃうしね。(笑)
 思えば、D-28'59 はテキサスから我が家に来ました。 今回は札幌。この2本はどっちも「海外」から来たことになりますね。(笑)

(最終更新日 2010.9.26)


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